PRODUCTION NOTE

    「かぐや様は告らせたい」を実写映画化するという企画が本格的に動き出したのは2017年のこと。企画プロデュースの平野隆(以下、平野P)は、赤坂アカによる異色のラブコメコミックの連載が「ミラクルジャンプ」でスタートした当初から着目していた。いわく、「恋愛を軸に描きながらも、『相手に告らせる』という……サブタイトルにもあるように、2人の天才が頭脳戦を連載当初から繰り広げていて、どちらかというとラブよりもコメディ色が強かったことが、すごく斬新に感じられた。何か核となるものを見つけ出せたら映画化できるはずと思ったんです」。
    その核となりうる象徴的なエピソードこそが、原作の第5巻に収録されている「花火の音は聞こえない/前・後編」だった。白銀御行と四宮かぐやの恋愛バトルがずっと進んできた中、ようやく訪れた〝ラブな瞬間〟が描かれる、原作ファンにとっても思い入れの深いエピソード。「みんなが私のために見せてくれた花火。だけど、ごめんなさい。その(=白銀の)横顔から目が離せない」という、かぐやのモノローグから『心臓の音がうるさくて、もう─花火の音は聞こえない』とサブタイトルに続いていくロマンティックかつポエティックな展開に、平野Pは「これで映画化できる」と確信する。すでに多くの愛読者を獲得し、連載を「週刊ヤングジャンプ」に移していた「かぐや様〜」の映画化は、こうして実現に向けて一歩を踏み出した。

    映画化が決まり、制作陣はプロットづくりを経て準備稿の作成に入る。続いて、キャストの人選が行われた。白銀とかぐやはそれぞれ頭脳明晰なキャラだが、作品そのものはコメディ要素がかなり強い。はたしてコミカルな芝居ができて、なおかつ高校生役を演じられる若手がいるのか─。そこでプロデューサー陣が目をつけたのが、作品のサブタイトルでも謳われている「天才たち」というパワーワードだった。若き天才肌の演者という線でキャスティングを進めていった結果、平野紫耀と橋本環奈の2人が有力な候補として浮かび上がってきた。「平野紫耀くんは天然系と言われていますが、実際に接してみて、長嶋茂雄さんっぽい雰囲気があって。バラエティや情報番組に出ると、何かひと言でみんなをポンッと笑わせることができる、その独特の〝間〟みたいなものもいいなと。原作の白銀御行もイケメンですが、顔の輪郭や目のカタチを含めた再現率の高さも期待して、彼なら白銀を演じられるんじゃないかと白羽の矢を立てました。橋本環奈さんは10代後半にしてすでにコメディエンヌとしての地位を確立していたのが大きい。白目をむいたり変な表情をしたり、この年代の女優さんが敬遠しそうなこともトコトン追求してやっているのを見て、覚悟がある人だなと。しかも、ベースは超美少女。ただ、ビジュアル面はもちろん、もっとも重要視したのは『キャラに合っていること』『コメディができること』の2点です」(平野P)
    主演とヒロインが決まり、いよいよ撮影に向けてプロジェクトは動き出した。

    〝恋愛頭脳戦〟と銘打っているように、「かぐや様〜」では白銀とかぐやの心の声=モノローグが物語の進行上で大きな役割を果たしている。実際の撮影でもモノローグに合わせて芝居をする場面が多々あるということで、平野と橋本はホン読み(台本の読み合わせ)をした後、モノローグの仮録りを行った。この時点で、両者はすでに〝天才〟ぶりを発揮。「かぐや様〜」の世界観をいち早くつかみ、それぞれ白銀、かぐやとしてセリフを発して、プロデューサー陣の期待値を遥かに超えてみせた。まだ手探りとも言える段階だけに、監督やプロデューサーからの手直しが入ることも通常は少なくないが、平野&橋本コンビは最初から白銀とかぐやのキャラクターをつかんでいたという。「2人とも原作を相当読み込んでいたみたいですけど、感覚的にニュアンスをつかむことができるのは、それこそ天才的なセンスの賜物だなと感じました」(平野P)
    一連のモノローグを仮録りし、リハーサルを経た後、一同はクランクインを迎える。

    3月15日(金)早朝、「かぐや様〜」の撮影が東京・木場からスタートした。ファーストカットは、かぐやが白銀の人間性を試すため、大金の入ったボストンバッグをわざと置いてトラップを仕掛ける─というくだり。
    その後、江東区青海、片瀬江ノ島海岸と場所を移しながら、ロケを進めていく。2日目には生徒会会計・石上優役の佐野勇斗や生徒会書記・藤原千花役の浅川梨奈、かぐや付き近侍・早坂愛役の堀田真由もワンシーンずつながら合流。それぞれ原作に限りなく近く寄せたビジュアルで現場に姿を現し、早くも〝かぐや様ワールド〟の住人となっている。
    座組のカタチが整ってきた撮影3日目および4日目には、平野Pが〝映画化の核〟と位置づけていた花火にまつわるエピソード周りの撮影が行われた。とりわけ、花火大会に間に合わず意気消沈するかぐやを白銀が見つけ出し、手を引いて房総の花火へと連れだすシーンは、2人の距離がグッと縮まり、ラブ度数が上昇する踏みきり台にもなっていく。ロケ地は横浜の総鎮守として知られる伊勢山皇大神宮。春先とはいえ陽が暮れてからの撮影となるため、まだまだ肌寒い。しかも設定は夏休み、かぐや役の橋本やエキストラは浴衣姿、もしくは軽装である。平野は詰め襟の制服姿(白銀家は父親の放蕩のため家計が厳しく、私服が買えない)と少し暖かめだが、撮影の合間も防寒用のコートを羽織ることなく現場に立ち続けていた。その振る舞いは、まさしく座長そのもの。また、芝居においては河合勇人監督とセリフのニュアンスや言い方を、微に入り細に入り確認。コミュニケーションをとった後の「はい、わかりました!」という小気味いい返事が、自然と現場を盛り立てる。撮影部と録音部、照明部がそれぞれセッティングをしている間は、ストーブで暖をとりながら橋本やスタッフを交えて談笑するなど、平野を囲む輪が広がっていった。

    なお、クルマの中から花火を見る、というシチュエーションが、このエピソードでは大きな意味を持つ。それだけに、役者たちの芝居はもちろんのこと、実景の撮影にも相当力を入れている。
    「2人のラブ度が最高潮に達する場面なので、普通の恋愛映画だったら、これがラストシーンでもおかしくない。でも、『かぐや様〜』は少女マンガ原作でもなければ、普通のラブコメでもないので、あのシーンが映画の真ん中過ぎぐらいに置かれていて。あの時点で恋が成就するわけじゃないですけど、数少ないラブ要素なので、ものすごくロマンチックに描きたかった。で、クルマの中からパッと一瞬だけ花火が見えるんですけど、この一瞬に、かぐやの想いを花火とともに凝縮させるのがベストだろう、と判断しました」(平野P)
    花火の実景は、ドローンによる空撮で「引きの画」も織り交ぜ、いっそう象徴的なシーンとして印象づけられている。プロデュースチームは交通量が少ない土曜日の深夜に現場をロケハンし、撮影部とともにドローンの細かい角度まで丹念に決めていったとのことだ。

    クランクインから約1週間。横浜市内の病院を借りての撮影現場には、ゴッドハンドの異名をとる世界的名医にして四宮家御典医・田沼正造役を演じる佐藤二朗の姿があった。
    恋の病で胸を痛め、倒れたかぐやを診察するシーンをはじめ、「白い巨塔」を彷彿させる総回診のカットなど、田沼が登場する場面をメインに撮っていく。共演歴が多いとあって、橋本と佐藤は合間合間で和気あいあいと会話を弾ませ、そのたびに響く橋本の高らかな笑い声が、現場の空気を和ませる。だが、本番が始まると一転。恋の病にかかっていることを告知する田沼と、まさかの診断に驚きを隠せないかぐやのシリアスなやりとりを具現してみせた。これまでのコメディ作品とは違ったおもむきを感じさせる両者が織りなす見事なコンビネーションは、さすがのひと言。なお、劇中では田沼がどんな人物なのかを「情熱大陸」ならぬ「情熱大国」のドキュメントに沿って紹介していくのだが、偶然にも佐藤の密着取材を行っていたホンモノの「情熱大陸」クルー(5月末に放送済み)が現場でカメラを回すという、ちょっとしたカオス状態に。「あれれ、これは『大陸』用?それとも『大国』用のコメント?ややこしくて吐きそう!(笑)」と、現場を笑わせた佐藤は出演シーンこそ多くないものの、ナレーションと併せて、その存在感を遺憾なく発揮した。

    ロケを中心にスケジュールが組まれた撮影期間も、4月上旬で折り返し。天候にはほとんど泣かされることもなく順調に進み、秀知院学園生徒会室で繰り広げられる一連のシーンへと移行していく。東京・調布市の日活調布スタジオ内に組まれたセットで、平野、橋本、佐野、浅川の4人は同世代ならではの一体感を見せ、コミカルかつちょっと切ない青春群像を織りなしていった。基本的には白銀とかぐやが静かながらも熱く繰り広げる恋愛頭脳戦に、石上と藤原が絡んでいくという構図。表向きのクールさと、妄想を膨らませていく時のギャップが笑いを生む白銀を演じた平野の熱演もさることながら、その妄想内でさまざまなキャラに変化するかぐや、ひいては橋本の変幻自在ぶりもすさまじい。冷静沈着な態度で白銀にトランプ勝負を挑むシーンを撮った後、ネコ耳をつけてメイド風の扮装で「ニャン、ニャ〜」と萌えさせたりと、振り幅の広い芝居を難なくこなしていく。若手女優きってのコメディエンヌとしての真価、ここに極まるといったところだろう。
    また石上役の佐野は、リア充を嫌う〝青春ヘイト系男子〟というキャラクターを、セリフまわしのスピードやトーンで絶妙に体現。藤原役の浅川も、ビジュアルのみならず声色や話し方も原作に寄せているあたり、リスペクトをもって役と向き合っているのが伝わってくる。そんな4人が任期を終えて生徒会室を後にするくだりは、それぞれの持ち味が存分に発揮された、印象深いワンシーンになった。生徒会長という重荷を下ろして安堵する白銀の解放感を平野がしみじみと感じさせる一方、橋本扮するかぐやは好きな人と共有してきた時間と空間との別れに、切なさをにじませる。さらに、天然で空気を読まない藤原が次期会長立候補を言い出すも、学園が崩壊すると石上にディスられる…という流れの中で、浅川は台本と少しニュアンスを変えて、アニメ声とドスのきいた声を織り交ぜて、石上を脅す─という芝居に。セリフが長い上、状況を説明するような役割を担った佐野も、カメラが回る前から入念にセリフを繰り返し、本番では滑らかにしゃべり続けて会話にリズムをつくりだす。撮影の合間もふざけあったり、共通の話題で盛り上がったりと、チームワークの良さが見てとれた4人だった。
    撮影が始まってからおよそ1ヶ月後の深夜、お台場の映画館でクランクアップ。平野紫耀と橋本環奈の名コンビは、「かぐや様〜」を通じて「恋愛頭脳戦」という今作ならではの斬新で個性的な世界観をスクリーンに映し出す。「ラストでも結局、2人が頭脳戦を繰り返しているという締め方って、崖から落ちるか落ちないかぐらいの結構な賭けなんです。どちらかの〝間〟が悪かったり、思いきりがよくないと失敗してしまう。でも、2人の不思議な表情の連打と〝間〟なら面白く見えるはずだと、賭けてみました」(平野P)
    はたして、平野紫耀と橋本環奈─両者のポテンシャルは想像以上のケミストリーを生みだしたのだった。

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